情報が溢れる現代、私たちは毎日大量の情報に触れていますが、自分の記憶は本当に信頼できるものなのでしょうか?MITの最近の研究は驚くべき事実を明らかにしました。AI、特に会話型AIは、私たちの脳に「偽の記憶」を植え付ける可能性があるのです。

AIは記憶の「ハッカー」?脳の記憶をこっそり改ざん

まず、「偽の記憶」とは何かを理解しましょう。簡単に言うと、実際に起こっていないのに、起こったと記憶していることです。これはSF小説の話ではなく、誰の脳にも存在する現実です。例えば、子供の頃デパートで迷子になった記憶があるのに、実は映画のシーンだった、というようなことです。

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では、AIはどのように記憶の「マジシャン」になるのでしょうか?研究者たちは200人のボランティアに犯罪動画を見せた後、4種類の方法で質問しました。従来のアンケート、事前に設定されたスクリプトによるチャットボット、そして自由に会話できる大規模言語モデル(LLM)駆動のチャットボットです。その結果、LLMチャットボットとやり取りしたボランティアは、3倍以上の偽の記憶を作っていたのです!

これは一体なぜでしょうか?研究者たちは、これらのチャットボットが質問を通して、気づかないうちに私たちの記憶を間違った方向へ導いていることを発見しました。例えば、「強盗犯が車に乗ってデパートの入り口まで来たのを見ましたか?」と質問された場合、実際は強盗犯が歩いていたとしても、この質問によって「車を見た」と記憶する人がいる可能性があります。

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さらに驚くべきことに、AIによって植え付けられた偽の記憶は数が多いだけでなく、「寿命」も非常に長いです。1週間経っても、これらの偽の記憶はボランティアの脳にしっかりと残り、しかもその記憶に強い自信を持っていました。

誰が「被害」を受けやすいのか?

では、誰がAIによって偽の記憶を植え付けられやすいのでしょうか?研究によると、チャットボットにあまり慣れていないが、AI技術に興味のある人が「被害」を受けやすいことがわかりました。これは、AIに対して先入観による信頼感があり、情報の真偽に対する警戒心が低くなるためかもしれません。

この研究は、記憶の正確性が非常に重要な法律、医療、教育などの分野において、AIの利用にはより慎重になる必要があることを示唆しています。同時に、AIの将来の発展にも新たな課題を突きつけます。AIを偽の記憶を植え付ける「ハッカー」ではなく、記憶の保護と強化を助ける「守護者」にするにはどうすれば良いのでしょうか?

AI技術が急速に発展する現代において、私たちの記憶は想像以上に脆弱かもしれません。AIが私たちの記憶にどのように影響するかを理解することは、科学者だけでなく、私たち一人ひとりが関心を持つべき問題です。記憶は世界を認識し、自分自身を理解するための基礎です。私たちの記憶を守ることは、未来の自分自身を守ることに繋がります。

参考文献:

https://www.media.mit.edu/projects/ai-false-memories/overview/

https://arxiv.org/pdf/2408.04681