2025年4月8日  近日、スタンフォードHAIが発表した「人工知能指数レポート2025」は、人工知能分野の「年度健康診断レポート」と言えるでしょう。前例のない広さと深さで、世界のAI研究、開発、展開、そして社会への影響に関する最新の動向を明らかにしています。レポートは、世界のAIが驚異的な速度で発展していることを明確に示しており、特にモデル性能の飛躍的向上、ハードウェア効率の顕著な改善、そして様々な業界へのAI導入などにおいて、目覚ましい成果を上げています。このレポートは、AI分野の専門家にとって重要な参考資料となるだけでなく、社会全体がAIの将来の方向性を理解するための重要な洞察を提供します。

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研究開発力の版図再編:東アジアが論文発表をリード、中国の特許「加速」が目立つ

レポートの第1章「研究開発」では、世界のAI研究開発力の新たな構図が示されています。2023年、東アジア太平洋地域が34.5%の割合で、世界のAI論文発表を圧倒的にリードしました。このデータは、同地域におけるAI基礎研究の強力な活力を示しています。同時に、欧州・中央アジア(18.2%)と北米(10.3%)も重要な研究成果を上げています。さらに注目すべきは、中国におけるAI特許付与数の顕著な増加傾向です。人口10万人当たりの変化率は特に顕著で、中国がAI研究を継続的に推進するだけでなく、研究成果を実用化することに力を入れていることを示しています。さらに、今年のレポートでは、AIモデルの訓練におけるエネルギー消費、環境への影響、そしてモデル推論コストの時間変化に関する分析が初めて追加されました。これは、AI発展の持続可能性をより包括的に評価するための重要な根拠となります。

注目モデルが続々登場:パラメーター規模の拡大が続く、産業界の「資金力」が際立つ

2010年代初頭以来、機械学習モデルのパラメーター数は指数関数的に増加しており、これは単なる数値の変化ではなく、モデルアーキテクチャの高度化、大量データの入手可能性、ハードウェア性能の飛躍的向上、そしてより大規模なモデルが複雑な問題解決において優れた有効性を示していることを反映しています。レポートは特に、大規模パラメーターモデルが産業界で広く利用されていることを強調しています。これは、業界の巨大企業が、大規模データの訓練に必要な莫大な計算コストを負担できる強力な能力を持っていることを明確に示しています。モデルのアクセス可能性に関しては、2024年、オープンウェイト(非商業利用)とAPI経由でアクセスできる著名なAIモデルが依然として重要な地位を占めています。これは、AI技術の普及と民主化が継続的に進んでいることを示唆しています。

ハードウェアエンジンの性能飛躍:驚異的なエネルギー効率の向上、グリーンAIが将来の焦点に

AI発展を支える基盤であるハードウェアエコシステムも進化を続けており、エネルギー効率がその先進性を測る重要な指標となっています。レポートでは、2024年3月に発表されたNVIDIA B100のエネルギー効率が1ワットあたり2.5兆回の浮動小数点演算に達し、2016年4月に発表されたNVIDIA P100の1ワットあたり740億回の浮動小数点演算と比較して、エネルギー効率が実に33.8倍向上したという驚くべき例が引用されています。この飛躍的な向上は、より強力な計算能力を意味するだけでなく、AIのエネルギー消費と環境負荷の低減にも希望をもたらします。レポートではAI訓練のエネルギー需要と環境への影響を評価し、一部AIモデルの炭素排出量推定値を示しており、「グリーンAI」が将来のAI発展における重要な方向性となることを示唆しています。

オープンソースの勢力拡大:GitHubの星の数々が輝き、米国がコミュニティ貢献をリード

オープンソースAIソフトウェアエコシステムは依然として活気に満ちています。2024年現在、GitHubのAIプロジェクトへの貢献率が最も高いのは米国で23.42%、それに続くのは欧州(19.15%)とインド(19.91%)です。GitHubの「スター」数は、開発者コミュニティによるオープンソースプロジェクトへの評価と支持を明確に反映しています。TensorFlow、OpenCV、Keras、PyTorchなどは、開発者コミュニティにおける広範な普及により、最も注目されているプロジェクトとなっています。2024年、米国はGitHubスターの総数を2110万個に達し、オープンソースAI分野におけるそのリーダーシップを改めて証明しています。

技術能力の継続的な突破:驚くほどリアルな動画生成、自動運転の安全性は人間を超える可能性も

技術性能に関しては、レポートは言語、視覚、動画、コード、ロボットなど、複数の最先端分野を網羅しています。Chatbot Arenaなどのオープン評価プラットフォームは、トップレベルのAIシステムの能力を測定するために広く利用されています。特に動画生成分野の急速な進歩は注目に値します。レポートでは、Pikaが2025年に生成した「ウィル・スミスがパスタを食べる」動画の品質が、2023年版と比べて飛躍的に向上したと述べられています。コード生成に関しては、SWE-benchなどのベンチマークテストが、AIモデルによる実際のソフトウェアエンジニアリング問題解決能力の評価に使用されています。自動運転技術も急速に進化しており、Waymoなどの企業は無人運転走行距離において顕著な成果を上げています。レポートの予備調査では、自動運転車が人間の運転車よりも安全である可能性さえ示唆されており、Waymo車両の100万マイル当たりの事故報告数が、人間の運転を基準とした数値を大幅に下回っていることが示されています。中国の自動運転開発も同様に急速に進んでいます。

責任あるAIの重要性が増す:学界と産業界が両面から取り組み、AI関連事件が警鐘を鳴らす

「責任あるAI」(RAI)は、AI発展において無視できない重要な課題となっています。学界におけるRAIへの重視度は継続的に高まっており、トップレベルのAI会議で採択されたRAI関連論文の数は顕著に増加し、2024年には1278編に達し、2023年の992編から28.8%増加しました。RAI論文発表数では米国がリードしています。プライバシーとデータガバナンス、公平性、透明性と説明可能性、そして安全性は、RAI研究の中核となる分野です。産業界もRAIへの投資を増やし始めていますが、投資規模は企業の収益と関連しています。しかし、調査によると、相当数の組織がAI関連事件を経験したと報告しており、AIの責任ある発展への警鐘となっています。サイバーセキュリティ、規制遵守、個人情報は、企業が最も関連性の高いAIリスクと考えています。

AIによる経済と研究開発への貢献:人材需要の継続的な上昇、バイオメディカル分野の可能性は無限大

AIによる経済への推進力はますます顕著になっています。レポートは、世界と米国のAI労働力需要、そして様々なスキルと業界におけるAI人材分布を分析しています。世界の企業によるAI分野への投資は高水準を維持しており、2024年だけで生成AIへの世界の民間投資は33億9400万ドルに達しました。世界で新たに設立されたAI企業の数も増加しています。科学と医学の分野では、AIが大きな可能性を示しています。AlphaFold3は、タンパク質とDNA、RNAなどの生体分子の相互作用をより正確に予測することができ、医薬品開発の進展を加速する可能性があります。医療保健業務における大規模言語モデルの性能評価も注目されています。

政策とガバナンスによる積極的な対応:公共部門の投資強化、国際協力が課題に

公共部門によるAIへの投資は、AI発展を推進する重要な力です。レポートは、米国と欧州におけるAI関連契約に関する公共支出、そして米国のAI関連助成状況を分析しています。世界規模では、G7を含む国際機関が、AIガバナンスと規制枠組みについて積極的に議論しています。

未来展望

「人工知能指数レポート2025」は、過去1年間の世界のAI分野における顕著な進歩を記録するだけでなく、AI技術が将来、私たちの生活と仕事を継続的に深く影響することを示唆しています。AIがもたらす機会と課題に直面して、国際協力の強化、責任あるAIの発展推進は、AI技術が全人類に利益をもたらすための鍵となります。

レポートダウンロードアドレス:https://hai-production.s3.amazonaws.com/files/hai_ai_index_report_2025.pdf